「入会者+1人」と「退会者-1人」利益への影響はどちらが大きいか
こんにちは。フィットネス業界税理士の小西 舞です。
多店舗展開を目指すジム経営者の方からよくいただく質問があります。
「広告を強化して新規入会者を増やすべきか、それとも既存会員の退会を防ぐ施策に力を入れるべきか」
どちらも重要なのは間違いありません。ただ、限られた時間と予算をどちらに優先して配分するかは、経営判断として避けられないテーマです。今回は数字で比較しながら、優先順位の考え方を整理します。
「入会者+1人」と「退会者-1人」は同じ1人ではない
まず前提を揃えます。
・月会費9,800円
・平均継続期間24ヶ月
という、よくある中価格帯ジムのモデルで考えてみましょう。
入会者が1人増えた場合
新規で1人入会すると、その人が今後支払う会費の合計(LTV)は、
9,800円 × 24ヶ月 = 235,200円
ここから新規獲得にかかったコストを差し引く必要があります。Web広告やチラシ、紹介キャンペーンなどを含めたCPA(顧客獲得単価)は、業態によって差がありますが、20,000円〜40,000円程度かかっているケースが多く見られます。
今回はCPAを30,000円とすると、
235,200円 − 30,000円 = 205,200円
これが入会者1人増加による純粋な利益インパクトです。
退会者が1人減った場合
一方、退会を1件防いだ場合はどうでしょうか。すでに会員である人が「辞めずに継続する」ということは、その人のLTVがそのまま守られるということです。
9,800円 × 24ヶ月 = 235,200円
ここで重要なのは、退会防止には新規獲得コストがかからないという点です。広告費もCPAも発生しません。つまり、
235,200円 − 0円 = 235,200円
同じ「会員数+1人」相当の効果でも、退会防止の方が獲得コスト分(この例では30,000円)だけ純利益が大きくなります。
なぜ退会防止の方が「効率」がいいのか
数字だけ見ると「大した差じゃない」と感じるかもしれません。ですが、ここで見えている差はコストの話だけではありません。
新規入会は「獲得できるかどうか不確実」な投資です。広告を出しても申込みにつながるかは確率論であり、CPAも市場環境によって変動します。
一方、退会防止は「すでに自店を選んでくれている人」へのアプローチです。接点もあり、関係性もすでに構築されているため、施策の手応えを把握しやすいという特徴があります。
さらに、退会防止には複利的な効果があります。会員が長く継続すればするほど、その分のLTVがそのまま積み上がっていきます。逆に退会率が高い状態を放置すると、新規入会でいくら埋めても「穴の空いたバケツに水を注ぐ」状態になり、広告費をかけ続けても会員数が伸びない、という構造に陥りがちです。
「気づいたら退会率が上がっていた」が一番怖いパターン
多店舗展開をされている経営者の方からよく伺うのが、「新規入会の数字は毎月見ているが、退会率は四半期に1回くらいしか確認していなかった」というケースです。
新規入会者数は広告のレポートやWeb申込み数として日々目に入りやすい一方、退会は「会員が黙って来なくなる」「自動更新が止まる」といった形で静かに進行するため、数字としてまとまるタイミングが遅れがちです。気づいた頃には、ある店舗だけ退会率が他店の1.5倍になっている、といった状況が珍しくありません。
退会防止を考える際にチェックしておきたい代表的な着眼点は以下の通りです。
- 入会後3ヶ月以内の退会率:入会直後のフォロー体制が機能しているかの指標。最初の数ヶ月で離脱が多い場合、入会時の説明や初期サポートに課題がある可能性があります。
- 来店頻度の低下:月の来店回数が減ってきた会員は、退会の予兆として現れやすい層です。
- 店舗間の退会率の差:同じブランドでも店舗ごとにスタッフの対応や設備の使い勝手で差が出ます。本部として店舗単位の数値を比較できる体制があるかが鍵になります。
これらは感覚で「なんとなく雰囲気がいい店舗は定着率も高い」と捉えられがちですが、数字として可視化しておくことで、どの店舗のどの時期に手を打つべきかが明確になります。
では、広告は不要なのか?
ここまで読むと「広告費は削って、退会防止だけに集中すればいい」と思われるかもしれませんが、それは早計です。
多店舗展開を見据えている場合、新規出店エリアでの認知獲得や、既存店舗の会員数自体を一定水準まで増やすフェーズでは、新規入会の獲得は避けて通れません。退会防止だけに集中していても、母数となる会員数が増えなければ事業のスケールは止まります。
つまり結論は「どちらかをやればいい」ではなく、優先順位として退会防止を先に整えるという考え方です。理由は明確で、退会率が高いままだと、新規入会で増やした会員数がそのまま流出してしまい、広告投資の効果自体が薄れてしまうからです。土台となる退会率を一定水準まで改善したうえで、新規獲得に広告予算を投じていく、という順番がコスト効率の観点で合理的です。
自店の数字で計算してみる
ここで挙げた数字はあくまで一例です。実際には、
- 月会費の単価
- 平均継続期間(月数)
- 新規獲得にかかっているCPA
- 現在の退会率
によって、入会者増加と退会者減少、それぞれの利益インパクトは店舗ごとに変わります。特に多店舗展開をされている場合は、店舗間でこれらの数値にばらつきがあることも多く、本部としてどちらに予算と人員を配分すべきか、店舗単位で判断が分かれることもあります。
たとえば「A店は退会率が高いので引き続き定着支援に予算を割き、B店は退会率が落ち着いているので新規広告に予算を厚めに配分する」といった判断は、感覚ではなく実際のLTVとCPAの数字を並べてみることで初めて根拠を持って下せるようになります。逆に、全店舗に同じ配分ルールを当てはめてしまうと、本来注力すべき店舗への手当てが薄くなり、結果的に全体の利益が伸びにくくなるケースもあります。
「自店の場合、実際の数字でどちらを優先すべきか」を具体的に算出してみたい方は、ぜひご相談ください。
当事務所では、安定した多店舗展開のために今どこに注力すべきか、数字を用いて効率的に判断するサポートをしています。新規入会者を増やすべきか、それとも既存会員の退会を防ぐ施策に注力すべきか。
初回相談は無料ですので、お気軽にお問合せください。
