経理

税理士が教える「失敗しない」経理効率化のステップ

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こんにちは。
フィットネス業界税理士の小西 舞です。

近年、AI技術の進化により、バックオフィス業務、特に経理の世界は劇的な変化を遂げています。

「AIを使えば楽になる」という話はよく耳にしますが、いざ導入しようとすると「何から手をつければいいのか」「自社に本当に合うのか」と立ち止まってしまう経営者の方も少なくありません。

特に、複数店舗の展開を目指すフィットネスジム経営者にとって、この課題は切実です。
店舗が増えるほど、売上・仕入・人件費・設備投資のデータは膨大になります。それを「勘」や「後追いの数字」で管理していては、次の出店判断を誤るリスクが高まります。

翌月10日前後には経理作業が終わり、会計を把握できる状況にしておくことが理想です。

経理の効率化は、単なるコスト削減ではありません。経営の「数字」をリアルタイムに把握し、次の一手を打つための「経営の武器」を手に入れるプロセスです。

今回は、経理の専任者が「いない場合」と「いる場合」の2つのパターンに分けて、AI導入の具体的なステップを解説します。

経理専任者が「いない」組織のAI導入ステップ

課題:経営者や店長が片手間で経理を行っている

専任者がいない場合、最大の問題は「経理が後回しになり、月次決算が遅れる」ことです。

月の数字が翌月末にならないと出てこない、という状態では、「今月のキャッシュが足りるか」「この店舗は黒字なのか赤字なのか」すら、リアルタイムでわかりません。多店舗展開を目指すなら、この状態は致命的です。

ここでのゴールは、「人が介在する時間を極限まで減らし、数字を自動的に出し続ける仕組みを作る」こと。以下のステップで進めていきましょう。

STEP 1:データの入り口をデジタルに一本化する

AIはどれだけ優秀でも、入ってくるデータが「バラバラ」「紙ベース」では力を発揮できません。まず、お金の流れをデジタルで一元管理できる状態を作ることが最初のステップです。

具体的にやること:

  • 現金決済の廃止・縮小
    各店舗の備品購入や消耗品の買い出しを現金で行っている場合、法人カードや電子マネー(Suicaなど)に集約します。「誰が・いつ・何に使ったか」が自動でデータとして残るため、後からの入力作業がゼロになります。
  • 銀行口座・クレジットカードをクラウド会計に連携
    マネーフォワードクラウド会計やfreeeなどのクラウド会計ソフトは、銀行口座やカード明細をAPI連携でリアルタイムに取り込む機能を持っています。入出金データが自動でソフトに流れ込むため、通帳を見ながら手入力する作業は不要になります。
  • 紙の領収書の即時デジタル化
    どうしても紙の領収書が発生する場合は、受け取ったその場でスマートフォンのカメラで撮影し、アプリへアップロードする運用にします。電子帳簿保存法の要件を満たした方法で保存すれば、紙の原本は破棄できます。ファイリングや保管棚が不要になり、保管スペースと管理コストを削減できます。

STEP 2:AIによる「自動仕訳」のルール化

データが自動で取り込まれるようになったら、次はそのデータを「会計上の勘定科目に振り分ける(仕訳する)」作業をAIに担わせます。

クラウド会計ソフトのAIは、取引データを学習し、「この支払先への支出は旅費交通費」「この口座からの引き落としは家賃(地代家賃)」といったルールを自動で学んでいきます。

具体的にやること:

  • 最初の1〜2ヶ月は「仕訳の先生」になる
    最初はAIの仕訳の提案が100%正解とは限りません。ここで面倒くさがらずに、間違った提案を都度修正することが重要です。この修正履歴をAIが学習し、精度が上がっていきます。
  • 取引先・費目ごとの仕訳ルールを手動で登録しておく
    よく取引するプロテインサプリのメーカー、トレーニング機器のリース会社など、定期的に発生する取引は事前にルールを登録しておくことで、最初から高精度な自動仕訳が可能になります。
  • 「確認・承認」だけが人間の仕事に
    ルール化が進むと、AIが仕訳の下書きを作成し、経営者はそれを確認してボタンを押すだけになります。月次の経理作業が、週1回・30分程度のチェック作業に圧縮されることも珍しくありません。

STEP 3:請求書発行・入金消込の自動化

フィットネスジムでは、法人会員への請求や、複数店舗分の経費精算など、請求書・領収書の管理が複雑になりがちです。ここもAIの力を借りましょう。

具体的にやること:

  • 請求書の自動発行・送付
    MisocaやBillOneなどの請求書管理サービスを使えば、毎月の定期請求書を自動で発行・送付できます。「今月の請求書、まだ出してなかった」という抜け漏れを防げます。
  • 入金の自動照合(消込)
    銀行口座に入金があった際、どの請求書に対する入金かをAIが自動で照合します。従来は通帳明細と請求書を目視で突き合わせていた作業が自動化されるため、入金漏れのリスクが大幅に下がります。
  • 未入金アラートの自動化
    支払期日を過ぎても入金がない場合、自動でアラートが上がる設定にしておけば、滞留債権の見落としを防げます。

経理専任者が「いる」組織のAI導入ステップ

課題:従来のやり方に固執してしまい、変化に抵抗がある

経理専任者がいる場合、「ツール選び」よりも先に解決すべき問題があります。それは、「担当者の心理的ハードルを下げ、役割を再定義すること」です。

「AIに仕事を奪われるのでは」という不安、「今まで自分のやり方で問題なかった」というプライド——これらは決して珍しい反応ではありません。しかし、この心理的な壁を越えずにツールだけを導入しても、担当者が使いこなさず宝の持ち腐れになります。

以下のステップで、担当者を「変化の当事者」として巻き込みながら進めていきましょう。

STEP 1:現場の「痛み」をヒアリングし、単純作業を切り出す

いきなり「これからはAIで全部やります」と宣言するのは逆効果です。まず担当者が日々感じている「面倒だな」「時間がかかるな」という業務を丁寧にヒアリングするところから始めます。

具体的にやること:

  • 業務の棚卸しシートを一緒に作る
    「毎月どんな作業を、どのくらいの時間をかけてやっているか」を担当者と一緒に書き出します。これをすることで、担当者自身が「自分の業務の何が非効率か」に気づき、改善への意欲が生まれやすくなります。
  • 「助けてもらうAI」という文脈で提案する
    「あの振込明細の入力作業、毎回大変そうですよね。AIに下書きさせてみませんか?」「経費精算のレシートチェック、AI-OCRに一次確認を任せれば、あなたは異常値だけを見ればよくなりますよ」——このように、「担当者の負担を減らすためのAI」という文脈で提案することが重要です。
  • まず1つの業務だけで試してみる
    最初から全業務を変えようとせず、「まずはこの1つの作業だけ試してみましょう」と小さく始めます。小さな成功体験が担当者の自信になり、次の変化を受け入れる土台になります。

STEP 2:AIを「優秀なアシスタント」として配置する

試験導入でAIの便利さを体感できたら、業務フロー全体を「人間がやる」から「AIがやったものを人間がチェックする」構造に切り替えていきます。

具体的にやること:

  • 「AIの一次処理 × 担当者の承認」というフローを標準化する
    AIが作成した仕訳候補を経理担当者が承認する、AIが照合した入金データを担当者が最終確認する——このように、AIを「下書きを作る係」として配置し、判断・承認は引き続き人間が行うフローにします。担当者の「自分が重要な役割を担っている」という感覚を守ることが大切です。
  • 例外処理のルールを明文化する
    AIが苦手とするイレギュラーな取引(店舗の改装費の資産計上、スタッフへの慶弔費の処理など)については、「このケースはAIではなく担当者が判断する」というルールを明文化しておきます。これにより、担当者は「AIにはできない、自分ならではの仕事」があることを実感でき、役割の存在意義を感じられます。
  • 月次レポートの自動生成を導入する
    クラウド会計の数字を自動で集計し、店舗別・月次の損益レポートを自動生成する設定にします。担当者が毎月Excelで手作りしていたレポートが自動化されることで、大幅な時間削減が実現します。

STEP 3:余った時間で「管理会計」へのシフトを支援する

AI導入によって記帳・照合・レポート作成にかかる時間が削減されたら、その余力を「経営分析・管理会計」に充てるよう、担当者の役割をシフトさせます。

これこそが、多店舗展開を目指す経営者が本当に求めている経理部門の姿です。

具体的にやること:

  • 店舗別の損益管理
    「どの店舗が稼いでいるか」「どの店舗のコスト構造が悪いか」を月次でレポートできる体制を整えます。新店出店の判断材料として、既存店の収益性データが活用できます。
  • キャッシュフロー予測
    売上の入金サイクル、家賃・人件費の支払いタイミングを踏まえた「来月末の手元資金予測」を担当者が出せるようにします。銀行融資の相談や、出店タイミングの判断に直結する情報です。
  • 予算実績管理
    年間予算を月次で追いかけ、「計画対比で今月はどうだったか」を分析する習慣を作ります。経理担当者が「数字を作る人」から「数字で経営を支える人」へと進化することで、社内での存在感も増し、モチベーションの向上にもつながります。

「ツールに合わせる」か「業務に合わせる」か

AI導入の際、多くの方が悩まれるのが「今のやり方に合うツールを探すのか、ツールに合わせてやり方を変えるのか」という点です。

私の答えは、「原則として、ツール(AI)の標準的な流れに業務を合わせる」です。

なぜなら、AIは「標準化されたデータ」を扱うときに最も高いパフォーマンスを発揮するからです。フィットネスジム独自の慣習——例えば「月謝の入金を独自の管理Excelで追っている」「複数店舗の経費を一つの口座でまとめて管理している」——といった運用を残したまま無理にAIを導入しても、結局「手直し」が増え、効率化の恩恵は半減してしまいます。

これを機に、長年続いてきた「自社独自の慣習」を見直し、AIがスムーズに動ける「AIファーストな経理体制」を構築することをお勧めします。

成功の鍵は「現状分析」にあり

AIを導入すれば魔法のように全てが解決するわけではありません。大切なのは、自社の現在の業務フローのどこに「詰まり」があり、どこに「AIの伸び代」があるのかを正しく把握することです。

  • どの作業に一番時間がかかっているのか?
  • その作業は、デジタルデータ化できるものか?
  • 今の担当者のスキルセットで、どのツールなら使いこなせるのか?

これらを冷静に分析せずにツールだけを導入しても、かえって現場が混乱するだけです。

まずは、貴社の「健康診断」から始めませんか?

経理のAI化は、多店舗展開を目指すフィットネスジム経営者にとって、今や避けては通れない道です。店舗が増えれば増えるほど、「どんぶり勘定」「月末に慌てる経理」では経営判断の精度が落ちます。しかし、無理な導入は組織を疲弊させます。

私たちは税理士として、数多くの企業のバックオフィスを見てきました。その経験を活かし、貴社にとって最適な「AI活用のロードマップ」を一緒に描くことができます。

  • 「AIを導入したいが、何から始めればいいかわからない」
  • 「今の経理担当者と協力して、スムーズに移行したい」
  • 「そもそも、今の業務のどこを自動化できるのか知りたい」
  • 「2店舗目、3店舗目の出店を見据えた経理体制を整えたい」

どんな些細な悩みでも構いません。まずは現状の作業を洗い出し、分析するところからスタートしましょう。

経理の効率化は、経営を強くするための第一歩です。まずはお気軽にお問い合わせください

Profile
小西 舞
小西 舞
税理士
1992年生まれ。フィットネス業界税理士。
銀行での不動産実務と、人材ベンチャーでの現場感覚を併せ持つ。自身の産後を救った運動の価値を信じ、多店舗展開に挑む経営者を支援。
経理早期化、KPI管理、財務戦略を柱に、資金と数字の不安を解消します。
不動産、人材の知識も掛け合わせ、経営者が「最高のサービス」に集中できる環境をサポートします。
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