たった10%の値下げが利益の7割を吹き飛ばす
こんにちは。
フィットネス業界専門税理士の小西です。
フィットネスジムの多店舗経営を行っている経営者の皆様。
今、このような「板挟み」に遭っていませんか?
- 「近隣に大手格安24時間ジムが出店し、退会者が増え始めた。対抗して値下げすべきか……」
- 「電気代、人件費、マシンメンテナンス費……あらゆるコストが上がっている。このままでは利益が残らないが、値上げをすれば会員が離れてしまうのではないか……」
集客が振るわない不安から「まずは価格を下げて入り口を広げよう」と考えるのは、経営者として極めて自然な反応です。しかし、財務コンサルタントとしての私の答えは、冷徹なまでに明確です。
「安易な値下げは、経営を終わらせる。今、あなたが選ぶべきは『正しい値上げ』です」
なぜ、これほどまでに断言するのか。その理由は、感情論ではなく、損益計算書(PL)という「数字」に隠されています。
「値下げ」という劇薬:損益計算書の残酷なシミュレーション
突然ですが、ここで質問です。
料金を10%値下げした場合、利益は何%下がるでしょうか?
以下3つから選んでください。
【 ① 10% 】 【 ②33% 】 【 ③66% 】
答えは… ③66%です。
そんなに減るの?10%じゃないの?と驚かれた経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
「売上の減少幅」と「利益の減少幅」を混同してしまうことは実によくあります。
実際の数字を使って解説していきます。
ここに、月商2,500万円、営業利益率15%(月間利益375万円)を稼ぎ出しているフィットネス企業があると仮定しましょう。集客を加速させるために、会費を「10%値下げ」したとします。
「売上が10%減るだけなら、まだ利益は残る」 そう思われるかもしれません。しかし、現実は残酷です。
- 改定前のPL: 売上 2,500万円 − 費用 2,125万円 = 利益 375万円
- 10%値下げ後のPL: 売上 2,250万円 − 費用 2,125万円 = 利益 125万円

売上はわずか10%減っただけですが、利益は250万円(66.7%)も消失したことになります。利益の約7割が、たった10%の値下げで吹き飛ぶのです。
さらに恐ろしいのはここからです。この失った250万円の利益を取り戻すには、どれだけの新規入会が必要でしょうか? 計算上、会員数を以前の1.5倍以上に増やさなければ、元の利益水準には戻りません。
人件費も、電気代も、家賃も下がらない中で、1.5倍の会員を捌く。スタッフは疲弊し、清掃は行き届かず、サービスの質は目に見えて低下します。その結果、さらに退会が増える。これが「値下げが引き起こす死のループ」の正体です。
「値上げ」という希望:再投資への唯一の切符
一方で、同じ条件で「10%の値上げ」に踏み切った場合を見てみましょう。
- 改定前のPL: 売上 2,500万円 − 費用 2,125万円 = 利益 375万円
- 10%値上げ後のPL: 売上 2,750万円 − 費用 2,125万円 = 利益 625万円

増収分の250万円は、そのまま「純利」として積み上がります。利益ベースで計算すれば、実に167%の成長です。
ここで、「値上げをすれば会員が辞めてしまうのではないか」という不安が頭をよぎるかもしれません。仮に、値上げの反発で会員が10%退会したとしましょう。その場合でも、売上は2,475万円、利益は350万円程度が確保されます。これは、10%の値下げをした場合よりも遥かに健全な財務体質です。
「会員が10%減っても利益が同じなら、意味がないのではないか?」
とも思われるかもしれませんが、経営の現場では劇的な変化が起こります。会員数が10%減るということは、現場のスタッフが対応する業務量も10%減るということです。
- スタッフの余裕: 忙殺されていたフロント業務や清掃、会員への声掛けにゆとりが生まれます。
- 従業員満足度(ES)の向上: 「薄利多売」の労働から解放され、一人ひとりのスタッフがプロフェッショナルとしての誇りを持って働けるようになります。
- 顧客満足度(CS)の向上: 余裕が生まれたスタッフは、会員一人ひとりの変化に気づき、より質の高い指導やホスピタリティを提供できるようになります。
こうしてサービスの質が向上すれば、既存の会員は「このジムは高くても通う価値がある」と確信し、さらなる価値向上(値上げ)をも受け入れてくれる土壌が整います。
これこそが、年商3億の壁を突破し、次のステージへ進むための「正の循環」です。目先の会員数という「数」を追う経営から脱却し、利益と現場の質を同時に高める「価値の経営」へ。その第一歩が、戦略的な値上げなのです。
もちろん、値上げ後も会員が退会しないように、値上げの見せ方を工夫する必要もあります。
※値上げの工夫については次回記事に記載します。これが経営者の腕の見せ所になります。
会員が退会しない、もしくは、一時的に退会者が出ても新たな入会者が増えれば、値上げによって「上乗せされた利益」は、経営者の次なる武器になります。
- 物価高への耐性: 高騰する電気代や消耗品費を余裕で吸収できる。
- 人件費への投資: 優秀なトレーナーの給与を上げ、採用力を強化できる。
- 体験価値の向上: 最新マシンの導入や施設のリニューアルを躊躇なく実行できる。
年商3億から10億、30億へとステージを上げる経営者は、この「利益のレバレッジ」の仕組みを熟知しています。「安さ」で集めた顧客は「安さ」で去るが、「価値」で集めた顧客は「価値」がある限り残ってくれるということを頭の片隅にでも置いておいていただければと思います。
なぜ今、フィットネス業界で「値上げ」が正義なのか
現在の日本経済は、数十年に一度の「デフレからの脱却」という大きな転換点にあります。顧客の心理も変わりつつあります。
かつては「安いこと」が正義でしたが、今は「コストがかかっているのだから、上がって当然。その代わり、質の高いサービスを受けたい」というマインドが浸透し始めています。特に、皆様のように多店舗展開をしている(目指している)ジムに通う感度の高い顧客層ほど、その傾向は顕著です。
大手資本による「月額3,000円以下」の格安24時間ジムと価格で競うのは、無謀かもしれません。彼らには圧倒的な規模の経済があります。 しかし、あなたには彼らにはない「地域密着のコミュニティ」「深い専門知識」「パーソナライズされた体験」があるはずです。
値上げとは、単なる価格の引き上げではありません。 「私たちは、この価格に見合うだけの価値を、あなたの健康と人生に提供し続ける」という、顧客に対する決意表明なのです。
実行のステップ:財務のプロが勧める「失敗しない価格改定」
とはいえ、「明日から一律値上げします」と告知するだけでは、現場の混乱を招きます。戦略的なステップが必要です。
- 損益分岐退会率の算出: 「会員が何%辞めても利益が増えるか」を正確にシミュレーションする。
- 付加価値の同時投入: 料金改定と同時に、新サービスの導入や施設の一部改修を行い、「値上げ=進化」であることを視覚的に見せる。
- 既存顧客への配慮: 継続期間の長いロイヤルカスタマーには、一定期間の据え置き期間(猶予期間)を設けるなどの配慮を検討する。
- オーナーの言葉で語る: 事務的な案内ではなく、なぜこの決断に至ったのか、それによって顧客にどのような未来を届けるのか、オーナー自らが「想い」を言葉にする。
まとめ
私がこれまで多くの経営者を見てきた中で、成功し続ける人の共通点はひとつです。それは「自分の提供している価値を、安売りしない勇気」を持っていることです。
「会員が集まらないから安くする」のは、対症療法に過ぎません。 「利益を確保し、より良いサービスを提供するために価格を適正化する」ことこそが、経営の王道です。茨の王道かもしれませんが、それしか無いのです。
多店舗展開をしていく「現場の延長線上のオーナー」から「真の経営者」へと脱皮するタイミングが必ず来ます。 数字を味方につけ、勇気を持って一歩踏み出しましょう。
あなたのジムが、5年後、10年後も地域で最も信頼される場所であり続けるために。私は財務と経営のパートナーとして、その決断を全力でサポートします。
「値上げが正しいことはわかった。でも、自分のジムで実行して本当に大丈夫だろうか?」
その不安を解消できるのは、感情ではなく「緻密なシミュレーション」です。
- 「現在の損益(PL)を基に、10%値上げ・値下げをした際の利益シミュレーションをしたい」
- 「損益分岐点を超え、スタッフに還元しつつ利益が出る『理想の会員数』を知りたい」
- 「退会率が何%までなら、値上げをしても利益が増えるのか、具体的なデッドラインを把握したい」
こうした疑問を、あなたのジムの実数値を用いてクリアにします。 場当たり的な価格設定で現場を疲弊させる前に、まずは一度、未来の数字を可視化してみましょう。
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あなたの情熱と現場の努力が、最大限の利益として結実する。そんな「正の循環」を作るパートナーとして、お力になれることを楽しみにしています。

